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どうやら御手洗(あるいは石岡)のファンは本当に女性にも多いらしい。「ボストン幽霊絵画事件」

夜から天王洲アイルで小川範子の二人芝居があり、ちょっと早めに家を出て小田急線に乗り込む。 時間的にかなり余裕があり、かなり疲れも溜まっていたので、途中追い越す急行は見送り、 ゆっくり座っていける普通に乗って新宿を目指すが、いつしか大爆睡しており、発車のベルに起こされ、 ふと気づくと、車内はがらんとした状態。朦朧とした意識を一挙にフル回転して状況を分析すると、折り返し運転で今まさに新宿を発車しようとしているのだ。 慌てて飛び降りた瞬間ドアが閉るという際どさ。かなり遠くに見えたが、運転手の冷たい視線を感じる。 さて新宿駅に降りたはいいが、どうもこの駅は苦手でいつも目的の場所にすぐに行けない。 今回も決して例外ではなく、JRの東口に行きたいので、JRの連絡口を抜けたらいいと思い、 自動改札を抜けようとするが、この切符では通れないというアナウンスではじかれる。仕方ないので、別の出口から出たはいいが、 延々東口まで大回りしてしまった。こういうときに駅のネビゲーションシステム付きの携帯でもあったらいいな、と思うのは私だけか。

東口では例のごとく紀伊国屋に入り、2階のフロアへ。ここは前回『御手洗さんと石岡君が行く』を発見したところであり、ミステリコーナーの在庫も豊富で気に入っているスペースだ。

御手洗さんと石岡君が行く


と、早速すぐに収穫があった。(ちょっと名前は忘れてしまったが)『御手洗さんと石岡君が行く』アンソロジーの第二弾で島田ファンの女流漫画家のコミックを中心に、石岡氏と『龍臥亭事件』で知り合った里美がデート?する小編も紹介されている様子。

御手洗さんと石岡君が行く―コミック・アンソロジー (2)


そしてさらに大きな収穫があった。何気なく目にした雑誌「メフィスト」の中に、なんと御手洗潔ものの短編を発見したのだ! 題名は「ボストン幽霊絵画事件」。彼が活躍する事件簿というのは本当に何年ぶりのことであろう。 以前本当に一時期だがEQ誌に御手洗の誕生日には御手洗シリーズをということで、短編がいくつか紹介された時期があったが、どうも光文社のEQ誌に初出して、講談社で単行本化するというシステムは長くは続かなかったようで、 御手洗シリーズの本来の出版元である講談社のメフィスト誌に発表することに落ち着いたらしい。(とはいえ、最近では『龍臥亭事件』がどちらかというと御手洗シリーズであるにもかかわらず光文社から発表されたが。 その辺りは恐らくギブ&テイクなのだろう。)雑誌の雰囲気としても新本格のメンバを中心に新しい感覚のミステリの発表を目指しているメフィスト誌の方がふさわしい気はする。 さて、発見してすぐ思ったのが買ってしまおうということだったが、他に興味がわいた作品がなかったし、そのうち短編集も出るはずなので止め、疲れてはいたが、ちょうどよい時間つぶしにもなると思い、立ち読みすることにした。 そして、途中腕が固まってしびれるは、立っているのがつらくなって何度かぶらぶら立つ場所を変えるはしたが、どうにか読破した。

龍臥亭事件


まずファンとして注目なのが本当に久しぶりに御手洗が活躍する作品であること。「アトポス」以来?短編では私が記憶するにEQ誌に掲載された「IgE」以来だと思うが、もしかしたらしばらく本屋通いをお留守にしていたので、抜けがあるかもしれない。 次に注目なのが御手洗の大学時代の活躍であること。しかも舞台はボストン。さらにさらに注目なのは、御手洗の生い立ちが一部紹介されており、彼は小学校までは日本にいたが、小学校の高学年からサンフランシスコに渡り、飛び級でボストンの大学に入学したというのだ。 そして今回はその大学時代の彼の活躍(事件簿)である。ここでちょっと疑問がわくのは、彼は京都大学出身ではなかったかということ。念のため、あとで『御手洗潔の挨拶』所収の「ギリシャの犬」を読み返してみると、やはり京都大学であることは間違いない。 ということはボストンの大学後、日本に帰ってきて京都大学にも在籍したということになる。実は「ギリシャの犬」にはシャーロック・ホームズシリーズによくあるアントールド・ミステリ(語られていない事件簿)があり(彼が在籍中に二人も校舎の屋上から飛び降りている)、 御手洗の大学時代のこの事件簿もいずれ紹介されるだろうと、ファンの間では期待が持たれていたが、一足先にボストンの大学時代の事件簿が紹介されたということになる。

アトポス (講談社文庫)


少し話は逸れるが、なぜいずれ紹介されると確信を持てるかというと、これまで島田作品にはアントールド・ミステリが何度か作品に挿入されているが、それらはいずれもその後確実に紹介されてきているからである。 例えて言えば「ギリシャの犬」。この作品の舞台はモナコから始まっているが、ちょうど彼らは「例の水晶のピラミッド事件」のお礼で招待されたことになっている。 しかしEQ誌1987年9月号に初出当時、『水晶のピラミッド』事件はまだ発表されていなかった。また別の例を挙げれば、『御手洗潔のダンス』所収の「山高帽のイカロス」。この作品はEQ誌1989年1月号発表当時「鳥人間事件」という題名だったが、そこで紹介されている「横浜、暗闇坂の事件」は、 その後一年以上経ってから『暗闇坂の人喰いの木』として紹介されている。ただしこの事件に関して言えば、講談社ノベルズの『占星術殺人事件』のあとがきでも、解説者(な、な、な、なんと後の綾辻行人氏!)の口からすでに予告されてはいて、熱烈なファンを何年も待たせたいわくつきの作品でもあったが。 ただそれが作品の中で始めて言及されたことにより、当時からのファンとしてはついに発表が近くなったか、と大きな喜びに包まれたものだ。

水晶のピラミッド (講談社文庫)


暗闇坂の人喰いの木 (講談社文庫)


話は「ボストン幽霊−』に戻るが、この中で石岡氏は、決して発表する事件簿がないわけではない(逆にたくさんある)のだが、事件に関わった人たちへの影響を配慮し、今後は日本ではなく、主に海外での彼の活躍を紹介する機会が増えていくだろう、と語っている。 すでに『切り裂きジャック・百年の孤独』ではドイツで、『暗闇坂の人喰いの木』ではスコットランドで、『水晶のピラミッド』ではアメリカやエジプトで、そして『アトポス』では死海で活躍している実績からしても、今後ますます全世界を舞台に彼の活躍が紹介されるというのは、ファンとしてはたまらい楽しみになる。 一方そうすると日本での事件は石岡氏が四苦八苦しながら解決するということになるのだろうが、立ち読みしている間に二人連れの若い女の子達が『龍臥亭事件』の愛蔵版の分厚さを評し、「『アトポス』とどっちが厚いか比べるためじゃない?」とか「石岡君だとどうしてあんなに事件が長くなってしまうのだろう」という言葉は印象的。

切り裂きジャック・百年の孤独 (文春文庫)


さらに別の女の子が先ほどのアンソロジー第二弾を見つけ、「へぇー、そんなんだ」と独り言を言ったあと、私と同じように立ち読みを始め、途中クスクス、クスクスと笑いながら熱中して読んでいるのを見ると、どうやら御手洗(あるいは石岡)のファンというのは本当に女性にも多いらしい。実はこれまでたびたび作品の中で石岡氏の口から、 御手洗には女性ファンが多いということを紹介されてきていたが、どこか半信半疑の気持ちであった。しかし、本当にそうなんだ、とこのとき初めて実感した。

さて「ボストン幽霊絵画事件」の方はキーになるトリックについてはすぐにわかったが、何より久しぶりの御手洗の言動に触れ、また今後こういった形での発表が続く予感を感じることができ、大収穫の出会いであった。

御手洗潔のメロディ (講談社文庫)

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